横手の企業が人手不足になったとき、最初に考えやすいのは採用である。
求人を出す。学校へ行く。中途採用を増やす。外国人材を採る。定年後も働いてもらう。
どれも必要になる可能性がある。
しかし、地域の働き手そのものが減るなら、全企業が採用だけで人手不足を解消することはできない。
企業同士で同じ人を取り合うことになるからだ。
横手市の第2次商工業振興計画も、市内企業の人手不足を課題としている。
その一方、横手ではすでに、手書き事務、農産物の選別、製造検査、酒造記録などをデジタル化・自動化した企業事例が公開されている。
人口減少下では「人を増やす」だけでなく、同じ仕事に必要な人の時間を減らすことが現実の経営課題になっている。
横手では、すでに省人化の実績が出ている
横手企業の公開DX事例を同じ表へ置くと、効果の出方はかなり違う。
| 企業 | 対象業務 | 公開されている効果 | まだ分からないこと |
|---|---|---|---|
| 楽器の店カネキ | 販売管理・経理の手書き、転記 | 対象業務が導入後約1〜2時間/日、現場評価で約7分の1、約1人分の事務作業量を省力化 | 導入前の正確な時間、年間削減人時、費用 |
| みずほライス | シイタケ選別 | 初心者4〜5秒/個に対しAI選果機1秒/個、判定精度約84% | 年間処理個数、年間削減人時、費用 |
| 大橋鉄工秋田 | 外観検査・取り外し・箱詰め | AI画像検査とロボットでカチオン塗装工程を全自動化、作業量・残業削減に寄与 | 削減時間、必要人数、費用 |
| 日の丸醸造 | 製造記録・情報共有 | 四重帳簿をクラウド記録へ統合、部門横断の人員配置をしやすくした | 帳簿時間の前後差、個別DXの売上寄与 |
ここから「横手企業はDXで平均○時間削減した」という数字は作れない。
測っている単位が違うからだ。
時間/日、秒/個、残業削減の定性的評価、長期の売上変化を一つの平均へ混ぜると、実績より数字の見栄えが先に立つ。
カネキでは、手書き業務が1日約1〜2時間まで縮んだ
楽器の店カネキの事例は、人の時間へ比較的近い単位で効果が公開されている。
導入前は、販売・経理情報の手書き、伝票の集約、台帳との突合、記帳などが勤務時間の大半を占めていたとされる。
クラウド型販売管理・会計システムへ移した後、対象業務は約1〜2時間/日へ収まった。
現場では「7分の1くらいの仕事量」、会社側では「およそ1人分の事務作業量を省力化」「経理事務を5分の1まで圧縮」と評価している。
ただし、導入前の正確な時間/日と年間稼働日数は公開されていない。
そのため、
年間○時間削減した
とは換算しない。
「約1人分」も1人を解雇した意味ではなく、事務作業量を減らしたという企業側の評価として扱う。
みずほライスでは、選別1個あたり4〜5秒が1秒になった
みずほライスのAI選果事例は、時間/日ではなく秒/個で比較できる。
初めて選別作業を行うスタッフは、シイタケ1個の良品判別に4〜5秒かかるとされる。
AI選果機は1個あたり1秒、判定精度は約84%と公開されている。
これは「AIだからすごい」という話より、工程の原単位を測れている点が重要になる。
一方、1日に何個処理するか、年間何日動くかが公開されていないため、これも年間削減人時にはしない。
また84%という判定精度は処理速度とは別指標であり、速ければよいとも言えない。
みずほライスではIoTによる栽培環境管理と収穫予測も行い、収穫時期・収穫量を予測して人員配置を改善できたとしている。
1菌床あたり売上高が2倍になったとの記載もあるが、これをIoT単独の因果効果とは扱わない。
大橋鉄工秋田は「全自動化」まで進んだが、削減時間は公開されていない
大橋鉄工秋田では、カチオン塗装工程の外観検査にAI画像検査を導入し、その後、部品の取り外し・箱詰めまでロボット化して全工程自動化へ進めた事例が公開されている。
作業量や残業時間の削減、検査負担の軽減に役立ったとされる。
ただし、
- 導入前後の作業時間
- 残業時間の削減値
- 必要人数
- 処理能力
- 導入費・保守費
は公開事例から確認できない。
ここで「全自動化=○人削減」と推定しない。
むしろ、量産開始当初には過検出と再検査も発生し、検査環境の検証に約5か月をかけた点を見る方が重要になる。
自動化は装置を置いた瞬間に完成するわけではない。
日の丸醸造は、ロボットではなく四重帳簿を消した
日の丸醸造の事例は、物理作業の自動化とは違う。
もろみ担当、分析担当、麹担当がそれぞれ記録簿を作り、さらに杜氏が書き写す「四重帳簿」の状態から、各部門がクラウド上の製造記録簿へ直接入力する方式へ移した。
これにより情報共有、マニュアル化、部門を越えた人員配置をしやすくしたとされる。
公開事例では12年間で従業員数が減る一方、売上高は約1.5倍になったとされるが、会社自身も複数の取組の積み重ねで効果測定が難しいとしている。
したがって、
クラウド帳簿だけで売上が1.5倍になった
とは書かない。
この事例の意味は、熟練者や担当部門へ閉じていた情報を共有可能にし、人の配置を変えやすくしたことにある。
4事例から分かるのは「AIを入れれば解決」ではない
4社の対象はそれぞれ違う。
- 手書きと転記
- 目視選別
- 外観検査と箱詰め
- 製造記録の多重入力
共通するのは、技術名より先にボトルネックがあることだ。
省人化を考えるなら、最初に、
- 誰が
- 何を
- 何回
- 何分・何秒かけているか
- どこで待っているか
- どこで同じ情報を書き直しているか
- 熟練者しか判断できない箇所はどこか
を測る方がいい。
その後で、クラウド、AI、IoT、ロボット、RPAなどを選ぶ。
技術から業務を探す順番にしない。
横手市の「年平均3%以上」は実績値ではなく計画要件
横手市の先端設備等導入制度では、中小企業が設備投資を行い、3年、4年または5年の計画期間で、基準年度比の労働生産性を年平均3%以上向上させることが要件になっている。
対象設備には機械装置だけでなく、測定工具・検査工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウェアも含まれる。
市は別に、中小企業設備導入支援補助金も設けている。
ただし「年平均3%以上」は認定計画に求める見込みであり、横手企業が実際に3%以上改善したという実績統計ではない。
制度要件と導入後成果を分ける。
省人化は「人をクビにする」こととは限らない
人手不足地域での省人化は、人員削減を目的にするとは限らない。
5人必要だった仕事を4人で回せるようにしても、余った1人を解雇するのではなく、すでに足りていない別工程へ移すことができる。
カネキの「約1人分の事務作業量を省力化」も、人員削減人数ではなく、戻せた作業容量として読む。
人口減少下では、退職者を補充できない会社が、今いる人数で事業を維持するために省人化するケースも考えられる。
地方の現場では「移動」を削れるかが大きい
横手は面積が広く、現場系事業では顧客や設備が点在する。
建設、設備、浄化槽、廃棄物、介護、保守などでは、人が作業している時間だけでなく、現場間を移動する時間も大きい。
人口が減っても顧客やインフラが中心部へ完全に集まらなければ、少ない人数で広い地域を回る必要がある。
この場合、省人化は1件の作業時間だけでなく、
- 訪問順をまとめる
- 顧客・設備情報を地図と履歴へつなぐ
- 過去履歴を現場で確認する
- 不要な再訪問を減らす
- 遠隔確認できる設備を増やす
といった移動最適化まで含む。
現在集めた4社事例では、横手の現場系サービスについて移動時間を何時間削減したかまでの公開実績はまだ取れていない。
ここは今後の観測対象として残す。
自動化しにくい仕事ほど、周辺作業を自動化する
介護、修理、除雪、現場施工など、人が物理的に行かなければ成立しない仕事は多い。
この仕事を全部AIへ置き換えることはできない。
だからといって省人化できないわけではない。
介護なら記録、シフト、請求、情報共有。
建設なら写真整理、日報、積算補助、工程共有。
設備保守なら点検履歴、部品在庫、遠隔監視。
廃棄物なら配車、ルート、受付、計量データ。
人間にしかできない作業の前後を機械化して、一人が現場に使える時間を増やす。
省人化すると、必要な社員の技能も変わる
設備を導入すると人が不要になるだけではない。
設備を設定する人、維持する人、異常時に復旧する人、データを読む人が必要になる。
単純作業の比率が下がれば、残る仕事は判断、調整、保守、改善へ寄る可能性がある。
地元就職者にとっては、これは重要な変化になる。
例えば同じ工場でも、単純な機械操作だけを経験するのか、設備保全、PLC、品質管理、生産管理まで触るのかで、10年後の転職可能性は違う。
現場会社でも、紙の点検票を書く人より、現場知識とデジタルシステムの両方を理解する人の役割が大きくなる可能性がある。
「AIに仕事を取られるか」より、会社がどこを機械化し、自分が機械化後の工程で何を担当するかを見る方が具体的だ。
小さい会社ほど、巨大システムを入れる必要はない
省人化というと高額な基幹システムや産業ロボットを想像しやすい。
しかしカネキや日の丸醸造の事例が示すように、最初の大きな改善点が「同じ情報を何度も書く」ことにある場合もある。
従業員10人、20人規模の企業なら、
- 顧客住所を複数台帳で持つ
- 現場写真を送り直す
- 紙の日報を後で転記する
- 同じ売上・製造情報を複数帳簿へ書く
といった重複を消す方が先に効く可能性がある。
AI時代でも、元データが紙と口頭だけなら自動化できる範囲は狭い。
「何時間戻ったか」の観測基盤はすでに作り始めている
このサイトでは、DX事例を「導入した技術一覧」としてだけ保存しない。
現在は少なくとも、
- 時間/日
- 秒/個
- 作業量
- 残業
- 人員配置
- 精度
- 導入前後の工程
- 未確認の分母
を分けてFact化している。
重要なのは、分母がないときに年間人時を作らないことだ。
カネキは導入前の正確な時間と年間稼働日数がない。
みずほライスは年間処理個数がない。
大橋鉄工秋田は削減時間の定量値がない。
日の丸醸造は個別施策の寄与率がない。
欠けている分母を推定で埋めず、次の調査項目として残す。
2030年までは、一工程ずつ削れるかを見る
会社全体を一度に自動化する必要はない。
経営側で追いたいのは、
- 1件あたり作業時間
- 1個あたり処理時間
- 1件あたり移動時間
- 再訪率
- 転記時間
- 残業
- 売上高/従業員
- 粗利/従業員
- 採用できなかった人数
- 退職者の補充率
である。
設備導入件数や補助金採択件数ではなく、同じ工程を何人・何時間で処理できるようになったかを見る。
2040年には、会社のサービス範囲そのものを変える可能性がある
人口減少が進み、社員数を維持できなければ、効率化だけでは足りない会社も出てくる。
その場合は、
- 利益の低いサービスをやめる
- 営業地域を絞る
- 同業他社と共同化する
- バックオフィスを外注する
- 拠点を統合する
- 業務を標準化して未経験者でも扱えるようにする
といった事業設計まで必要になる可能性がある。
省人化は「今の会社をそのまま小人数で再現する」だけではない。
人口減少に合わせて、何を残す会社かを決めることまで含む。
自動化してはいけない場所もある
安全、法令、品質、人命に関わる判断を、十分な検証なしにAIへ任せることはできない。
現場作業では資格者配置が法令で必要な場合もある。
高齢者や住民との対面調整を完全に消すと、サービス品質が落ちることもある。
そのため省人化は、
- 法的に人が必要な作業
- 技術的に人が必要な作業
- 顧客が人を必要とする作業
を残し、それ以外を減らす方がよい。
地元就職者は「自動化される仕事」より「自動化する側へ近いか」を見る
社員として見るなら、
- 改善提案ができるか
- データへ触れられるか
- 設備保全を学べるか
- 業務設計へ関われるか
- ITを単なる外注先任せにしていないか
を見る価値がある。
同じ地元就職でも、10年後に「機械で置き換えられた工程」だけを経験しているか、「機械を入れて工程を変えた経験」があるかでは可搬性が違う。
現時点の結論
横手ではすでに、省人化が抽象論ではなく企業事例として確認できる。
ただし、実績の単位は揃っていない。
カネキでは時間/日、みずほライスでは秒/個、大橋鉄工秋田では作業量・残業削減、日の丸醸造では情報共有と人員配置の改善として出ている。
だから、
DX導入件数
より、
どの工程が、どの単位で、どれだけ軽くなったか
を追う。
横手の人手不足を採用だけで解決できないなら、50年先まで残る会社に必要なのは、毎年何人採ったかだけでなく、一人あたりの無駄な時間をどこまで減らせたかを測れることになる。
Sources
yokote-commerce-industry-plan-r8-r12: 横手市「第2次横手市商工業振興計画」yokote-advanced-equipment-support-r8: 横手市「先端設備等導入制度による支援」yokote-sme-equipment-subsidy-r8: 横手市「横手市中小企業活性化支援事業(中小企業設備導入支援補助金)」akita-labor-balance-yokote-r8-04: 秋田労働局「令和8年4月の職業別求人・求職バランスシート(ハローワーク横手)」akita-dex-kaneki-dx: 秋田県 AKITA DeX「株式会社楽器の店カネキ 社内のITインフラを整備して効率化を促進」akita-dex-mizuho-rice-dx: 秋田県 AKITA DeX「株式会社みずほライス データを活用し高品質・安定供給可能なシイタケ生産を実現」akita-dex-ohashi-tekkou-akita-dx: 秋田県 AKITA DeX「大橋鉄工秋田株式会社 AI画像検査とロボットの導入により製造工程を全自動化」akita-dex-hinomaru-dx: 秋田県 AKITA DeX「日の丸醸造株式会社 身近なデジタルツールを活用した『自分たちでできるデジタル化』」