横手市で家を買って30年、40年住むなら、水道料金は現在の金額だけを見ても足りない。
横手市自身が、水道事業について「見込み以上の人口減少による給水収益の低下」を理由の一つとして経営戦略を改定している。
2026年7月29日の横手市上下水道事業経営協議会では、市長から「水道料金改定の検討について」が諮問され、協議会は全員賛成で料金改定の検討を行うと判断した。
2026年9月時点で、この記事は新しい料金額が決まったとは書かない。
確認できるのは、人口減少を含む経営環境の悪化を背景に、料金改定の具体的な検討段階へ入っていることだ。
水道は税金ではなく、主に水道料金で経営する
横手市水道事業は地方公営企業として運営されている。
一般行政のように主に税金で賄うのではなく、水道料金を中心とした収入で事業を運営する独立採算制が原則になる。
利用者が減ると、料金収入の基礎になる給水人口と使用水量も減りやすい。
一方で、水を届けるための施設や管路を同じ速度で減らせるとは限らない。
人口減少地域の水道が難しいのはこの部分だ。
2023年度の給水人口は68,114人
横手市が公開する「わかりやすい水道事業の経営」では、2023年度決算時点の水道事業を次のように整理している。
| 項目 | 2023年度 |
|---|---|
| 行政区域内人口 | 81,616人 |
| 給水人口 | 68,114人 |
| 給水戸数 | 28,654戸 |
| 年間配水水量 | 9,451,570m³ |
| 年間有収水量 | 7,176,874m³ |
| 職員数 | 34人 |
| 浄水場 | 22施設 |
| 管路延長 | 1,022km |
市の説明では、給水人口は毎年約1,000人ずつ減少する傾向にあり、有収水量もそれに比例するように減少している。
人口が減ることが、そのまま水道料金収入の減少へつながりやすい構造になっている。
1000kmを超える管路は、利用者が減っても残る
2023年度時点の管路延長は1,022km。
市は「横手市から山口県までの距離に相当する」と説明している。
FM計画の別資料でも、人口が減っている期間に上水道管路の延長自体は縮んでいない。
水道利用者が年間約1,000人ずつ減ったとしても、翌年に管路を10km、20kmと簡単に廃止できるわけではない。
住宅が点在して残れば、その地域まで水を届ける必要がある。
さらに高度経済成長期などに整備された施設・管路は更新時期を迎える。
利用者は減るが、更新対象は残る。
これが水道事業の固定費的な重さになる。
施設を全部自前で更新するのではなく、県境を越えた共同利用も始まった
人口減少下で水道を維持する方法は、料金を上げるか管路を直すかだけではない。
山内黒沢地区では、老朽化した水道施設を横手市が単独で更新する代わりに、岩手県西和賀町の柳沢浄水場系施設を共同利用する方式へ切り替えた。
2025年5月29日に受水を開始し、5月31日に完成通水式が行われている。
横手市の計画では、この水道施設共同化事業の計画事業費は66,304千円だった。別の請負人評価資料では、山内黒沢地区水道施設改修工事R6工区の請負額として62,387,600円が確認できる。
ただし、この二つは同じ意味の数字ではない。
66,304千円は計画事業費で、62,387,600円は確認できた一工区の請負額である。後者だけを共同化全体の最終総事業費とは扱わない。
接続費を払っても、単独更新より40年間で約2億円安いという試算
横手市は、新たな浄水施設を山内黒沢地区へ建設する場合と比べ、西和賀町との共同利用によって40年間で約2億円の経費を節約できるとしている。
これは2025年までに2億円の支出削減を実現したという決算値ではない。
単独更新案と共同利用案を長期で比較したライフサイクル試算である。
それでも、この事例は人口減少下の水道再編を具体的に示している。
自前の浄水施設を新設・維持する
↓
他自治体の既存浄水施設を共同利用する
+
接続に必要な施設を整備する
+
横手市側の管路を維持する
+
毎年の共同利用負担を支払う
施設を一つ持たないようにしても、費用がゼロになるわけではない。
固定設備への投資を避け、接続費と継続負担へ費用構造を変える。
共同利用後も、受水負担金は予算上残っている
共同利用開始後の予算資料でも、この継続負担を確認できる。
2025年度の原水及び浄水費の「負担金」は9,139千円、2026年度は12,792千円で、どちらの説明欄にも「大松川ダム管理運営費負担金、山内黒沢受水負担金」と記載されている。
ここで9,139千円や12,792千円を、そのまま山内黒沢受水負担金の額とは書けない。
大松川ダム分との合算科目であり、公開資料から山内黒沢分だけを分離できないからだ。2025年度から2026年度への3,653千円の増加も、山内黒沢分の増加額とは扱わない。
また両方とも当初予算で、決算実績ではない。
確認できるのは、共同利用を始めた後も、山内黒沢の受水負担が単年度予算の費目として残ることまでである。
「40年間で約2億円安い」という長期試算と、「毎年の負担は続く」という事実は矛盾しない。
人口減少下のインフラ縮退を見るときは、施設を減らしたかだけでなく、減らした後に何へ払い続けるのかまで見る必要がある。
旧戦略の9.86%改定試算が、見直しでは平均29%になった
横手市の説明では、2019年に策定した旧経営戦略では2026年度に9.86%の料金改定を行う試算だった。
その後、新型コロナウイルス感染症、エネルギー価格高騰、想定を超える減収と費用増加、見込み以上の人口減少などで、事業計画と実情の乖離が大きくなった。
2024年3月に改定した水道事業計画・経営戦略では、計画期間全体で損失を生じさせないことを前提にすると、2026年度に平均29%引き上げる料金改定が必要という試算になったと市は説明している。
これは「2026年度に29%値上げすると決定した」という意味ではない。
市自身も利用者の急激な負担増を防ぐため、激変緩和期間を設ける考え方を示している。
そして2026年7月時点で、上下水道事業経営協議会が料金改定の検討を始めている。
試算と実際の料金改定は分けて追う必要がある。
地元就職者には、住宅費の一部として関係する
25歳で地元就職するとき、水道料金はキャリアの話に見えない。
しかし横手に住宅を持ち、家族で数十年暮らすなら、公共料金は固定的な生活費になる。
人口減少地域では、次の費用を現在額で固定して人生設計しない方がいい。
- 水道
- 下水道
- ごみ処理に関係する負担
- 自家用車・燃料
- 除雪
- 住宅修繕
全てが上がると断定するわけではない。
ただ、人口減少によって利用者数が減っても維持対象が残るサービスは、料金・税・サービス水準のいずれかで調整が必要になる可能性がある。
移住者は「上下水道があるか」だけでなく、その方式を見る
横手市内でも生活排水の処理方式は一つではない。
上水道、下水道、集落排水、浄化槽など地域によって使うインフラが異なる。
移住先を選ぶときは、「上下水道完備」という不動産情報だけでなく、長期的には次を確認した方がいい。
- 水道の給水区域
- 下水道接続か浄化槽か
- 現在の料金・使用料
- 浄化槽なら維持管理・清掃・法定検査の費用
- 井戸等を併用する場合の管理
- 将来の施設統廃合計画
同じ横手市でも、住む場所によって生活インフラの維持方法が異なる。
地場企業には「人口減少対応そのもの」が仕事になる
水道事業の縮小は、水道関連の仕事が単純になくなることを意味しない。
人口が減るほど、施設統合、管路更新、漏水対策、遠隔監視、省人化、設備保守などが重要になる可能性がある。
市の経営戦略も、施設整備、管路更新・耐震化、広域連携、人員配置、民間委託などを経営方針として扱っている。
山内黒沢の事例では、自前浄水施設の更新需要を避ける一方で、接続工事、管路維持、共同利用の運用という仕事が残る。
地場企業にとっては、新設需要よりも「少ない人数と収入で既存網を維持・縮退させる仕事」の比重が上がる可能性がある。
2050年、2070年までに何を見るか
水道事業計画・経営戦略の現在の計画期間は2038年度まで(令和20年度まで)で、2070年までの具体的料金を示すものではない。
そのため50年先の料金を予測しない。
代わりに、毎回同じ変数を追う。
- 給水人口
- 給水戸数
- 有収水量
- 管路延長
- 浄水場数
- 更新投資額
- 職員数・委託範囲
- 料金収入
- 料金改定
- 企業債
- 広域連携・施設統合
- 共同利用先への継続負担
人口が減る速度と、設備を減らす速度の差が縮まっているかを見る。
同時に、施設を減らした場合は、その代わりに発生する接続投資や共同利用負担も追う。
このケースが示していること
人口減少は抽象的な社会問題ではない。
横手市の水道では、市自身が人口減少を給水収益低下の要因として明記し、料金水準を検討する段階まで来ている。
一方、山内黒沢では、古い施設をそのまま自前更新せず、県境を越えた共同利用へ切り替える再編も実行された。
つまり人口減少下の水道対応は、単純な値上げだけではない。
料金を見直す、管路を更新する、施設を共同利用する、その後の継続負担を持つ。
複数の手段を組み合わせて、少ない利用者で長い水道網を維持しようとしている。
これから横手で働き、家を持ち、老後まで暮らすことを考えるなら、「人口が減る」という統計と自分の生活費は別の話ではない。
同じ方法で下水道、除雪、公共交通、ごみ処理、医療を追う。
現時点で分からないこと
2026年9月時点で、最終的な水道料金改定率・実施時期はこの記事の確認範囲では決定事項として扱わない。
また平均29%という数字は経営戦略上の試算であり、各世帯の請求額が一律29%増えることを意味しない。
山内黒沢についても、2025年度・2026年度予算の合算負担金科目から山内黒沢受水負担金だけを分離できておらず、2025年度決算の実支払額も未確認である。
今後は、上下水道事業経営協議会、市議会、料金表の更新に加え、共同利用後の受水負担金実績と施設数・維持費の変化を追う。
Sources
yokote-water-sewer-strategies: 横手市「上水道・下水道事業の経営戦略」yokote-water-management-explainer: 横手市「わかりやすい水道事業の経営」yokote-water-council-r8-02: 横手市「令和8年度 第2回横手市上下水道事業経営協議会」yokote-water-rates-r8: 横手市「水道料金、水道加入金、手数料などの料金表」yokote-population-vision: 横手市「横手市人口ビジョン」yokote-water-strategy-2024: 横手市「横手市水道事業計画・経営戦略」yokote-water-plan-r6-summary: 横手市「水道事業計画・経営戦略改定概要」yokote-water-r7-contractor-evaluation: 横手市「令和7年度 請負人別評価結果一覧表」yokote-water-news-r7-autumn: 横手市上下水道部「上水道だより 令和7年秋号」jdpa-yokote-nishiwaga-water-sharing-2025: 横手市上下水道部「岩手県西和賀町との水道施設の共同利用について」yokote-water-r7-initial-budget: 横手市「令和7年度 横手市水道事業会計予算説明資料」yokote-water-r8-initial-budget: 横手市「令和8年度 横手市水道事業会計予算説明資料」