横手市の人口は長期的に減っている。
では、地域経済も人口と同じ割合で縮んでいるのか。
答えは単純ではない。
横手市の第2次商工業振興計画に掲載された経済指標を見ると、人口と事業所数は減っている一方、名目の市内総生産、1人当たり市民所得、従業者数、製造品出荷額、小売販売額などは比較時点によって増えている。
「人口減少=経済指標が全部減少」ではない。
さらに個別企業を見ると、横手市外から売上を取る会社や、DXで同じ仕事を少ない手間へ変えている会社もある。
ただし、これらの個社事例を横手市全体の市内総生産増加の原因とは扱わない。
この記事では、人口と経済が同じ割合で動かない経路が実際に存在することまでを確認する。
人口は10年で15%減った
市の商工業振興計画では、横手市の人口を2014年93,111人、2024年78,916人としている。
10年間で14,195人、約15%減っている。
一方、同じ表にある他の指標は調査年が必ずしも同じではない。経済統計は数年遅れて公表されるものが多いため、以下は「すべて2024年時点の比較」ではない。
事業所は減ったが、従業者数は増えている系列がある
経済センサス等に基づく市の経済指標表では、事業所数は2012年5,008事業所から2021年4,541事業所へ減った。
467事業所、約9%の減少になる。
しかし従業者数は、2012年38,381人から2021年40,839人へ増えている。
| 指標 | 過去 | 直近 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 事業所数 | 5,008(2012年) | 4,541(2021年) | 約9%減 |
| 従業者数 | 38,381人(2012年) | 40,839人(2021年) | 約6%増 |
一見すると、事業所が減って残った拠点へ雇用が集まったように見える。
ただし、同じ商工業振興計画には別の集計条件で、2021年の民営事業所4,189、従業者36,573人という系列もある。
この民営系列では2016年4,608事業所・37,368人から、2021年4,189事業所・36,573人へ、事業所も従業者も減っている。
したがって、
- 2012年5,008 → 2021年4,541
- 2016年4,608 → 2021年4,189
を一つの連続系列としてつながない。
統計対象の違いを消すと、存在しない増減を作ってしまう。
企業集約の詳細は別記事「事業所が減る横手で、企業集約は進んでいるのか」で扱う。
名目の市内総生産は増えている
市内総生産は2012年度2,810億3,300万円から、2022年度3,157億5,000万円へ増えている。
名目額では約12%増になる。
1人当たり市民所得も、2012年度215万6千円から2022年度261万8千円へ増えている。
ただし、この増加だけで「横手市が豊かになった」とは断定できない。
まず名目値なので物価変動を含む。
また、市の資料では2022年度の1人当たり市民所得は秋田県平均を100とした場合94.5で、県内順位は8位とされている。
人口が減ると、総額と1人当たり指標が逆方向へ動くこともある。
地元就職で給与水準を判断するなら、市民所得ではなく実際の求人賃金、産業別賃金、企業の給与レンジを別に見る必要がある。
小売と製造も単純には減っていない
市の資料では、製造品出荷額等は2012年1,194億4,500万円から2022年1,298億2,000万円へ増えている。
小売業年間販売額は2011年985億1,500万円から2020年1,049億2,100万円へ増えている。
一方、卸売業年間販売額は2011年891億7,500万円、2020年890億3,700万円で、ほぼ横ばいに近い。
人口が15%程度減った期間でも、販売額や出荷額が同じ比率では減っていない。
価格上昇、生産性、商圏、周辺自治体からの需要、事業集約など複数の要因があり得る。
ここから先は、実際の横手企業で確認できる経路を二つ見る。
経路1: 横手市外から売上を取れば、市内人口と売上は切り離せる
横手市に本社を置く渡敬情報システムは、2022年の秋田県インタビューで、売上高ベースでは県外の仕事が半分以上を占めると説明している。
当時の直近期売上高は6億円で、関東圏・関西圏を中心に全国から仕事を受けていた。
現在公開されている企業情報では年商7億6,000万円、主要顧客として秋田県内の民間企業・農協だけでなく、首都圏の社会福祉協議会、福祉法人、公益財団法人などが挙げられている。
ここで2026年現在も「県外売上が半分以上」とは書かない。
2022年の地域別売上比率と、現在の売上総額・主要顧客は別の情報だからだ。
それでも、横手市内の人口だけでは売上上限が決まらない企業が実在することは分かる。
横手に本社・従業員を置く
+
県外の顧客へサービスを売る
↓
地域人口とは別の需要を取り込む
このモデルでは、顧客市場は広げられる。
一方、社員を横手周辺で採用するなら、売上は県外でも供給能力は地域の労働人口に制約される。
人口減少の影響が消えるのではなく、顧客側から採用側へ現れ方が変わる。
経路2: 同じ人数でも処理量を増やせれば、人口減少を一部吸収できる
もう一つの経路が生産性向上である。
横手市に本社を置く楽器の店カネキの公開事例では、販売・経理の手書き関連業務が、導入前には勤務時間の大半を占めていた状態から、クラウド型販売管理等の導入後は1日約1〜2時間まで縮小したとされている。
現場評価では仕事量が約7分の1、会社側では約1人分の事務作業を省力化したという説明もある。
また、みずほライスのシイタケ選果では、初心者が1個を判別するのに4〜5秒かかるのに対し、AI選果機は1秒/個とされている。IoTによる収穫予測を人員配置にも使っている。
これらから年間何人分の労働力を生み出したかは計算しない。
対象人数、年間稼働日数、導入前後の全作業時間が揃っていないからだ。
ただ、人口減少下の企業対応が「人をもっと採る」だけではないことは具体的に確認できる。
働く人が減る
↓
同じ手順を少ない人数へ押し付ける
ではなく、
手書き・判定・移動・確認などを減らす
↓
人が必要な工程へ労働時間を移す
という対応があり得る。
域外売上と省人化は、同時に必要になる場合がある
県外へ売れば市場を広げられる。
しかし受注が増えても、横手で働く人が減れば供給能力が不足する。
省人化すれば一人あたり処理量を上げられる。
しかし市内需要だけに依存している会社では、顧客数そのものが減れば売上上限が下がる可能性がある。
人口減少下の地場企業では、
- 需要側: 市外・県外・全国へ売れるか
- 供給側: 少ない人数で処理できるか
を分けて見る必要がある。
会社によっては両方を同時に進める必要がある。
地場経営者にとって「人口が減るから市場も同率で減る」は雑すぎる
事業を拡大する経営者が見るべきなのは、市の総人口だけではない。
少なくとも次を分けた方がいい。
- 自社の顧客は市民だけか、県南全体か、全国か
- 顧客は若年層か高齢者か、企業か行政か
- 人口が減っても必要量があまり減らないサービスか
- 人口減少より速く人手が減る業種か
- 競合企業の撤退で1社あたりの商圏が広がる可能性があるか
- 店舗型から訪問型、EC、広域配送へ変えられるか
- 事務・選別・点検・配車などを省力化できるか
人口が半分になる地域でも、すべての企業の売上が半分になるわけではない。
逆に人口が減っても、採用難や物流費、設備維持費によって事業が成立しなくなるケースもある。
地元就職者にとっては「成長産業」より転職可能性を見る
地域経済の指標が伸びていても、その利益や需要が自分の職種へ流れるとは限らない。
製造品出荷額が増えていても、製造業のすべての職種の賃金が上がるわけではない。
小売販売額が維持されても、店舗数や雇用形態は変わる可能性がある。
就職先を判断するなら、次を分けて見る必要がある。
- 産業全体の売上・生産
- 地域内の企業数
- 従業者数
- 職種別求人
- 賃金
- 年齢構成
- 市外への転職可能性
- 会社の売上地域
- 生産性向上への投資
「横手の製造業は強い」「医療福祉は需要がある」といった一言では、キャリア判断には足りない。
50年先では、縮小より再編の方が重要かもしれない
社人研推計では横手市の人口は2050年47,879人、2070年28,508人まで減る。
現在の経済構造がそのまま比例縮小するとは考えにくい。
起こり得るのは、企業数、店舗数、雇用が同じ割合で減ることではなく、拠点や企業への集約、売上地域の広域化、工程の省人化である。
例えば事業所数が減っても、一社あたりの従業者や商圏が大きくなることはあり得る。
行政や医療、廃棄物、建設、物流などでも、複数地域を一つの拠点から支える形が増える可能性がある。
一方、ITや食品のように地域外へ売れる業種では、横手に生産・雇用拠点を置きながら外部需要を取る形もある。
このサイトでは「経済が縮小するか」だけでなく、
- 何がどこへ集約されるか
- 売上をどこから取っているか
- 少ない人数でどこまで処理できるか
を追う。
現時点で分からないこと
この記事で比較した市全体の指標は調査年が異なる。
名目額には物価変動が含まれ、企業収益や労働者の実質賃金を直接示すものではない。
また、市内総生産や販売額が維持されても、所得分配、雇用の質、労働時間までは分からない。
渡敬情報システム、カネキ、みずほライスは横手企業の具体例であって、市内企業全体を代表する標本ではない。
個社の県外売上やDX成果を、市内総生産増加の因果要因として足し上げない。
今後は産業別従業者、求人賃金、企業規模、開廃業、事業承継、地域別売上、省人化効果を別系列で確認する。
Sources
yokote-commerce-industry-plan-r8-r12: 横手市「第2次横手市商工業振興計画」akita-dex-wisco-interview-2022: 秋田県 AKITA DeX「渡敬情報システム株式会社 県南で地元貢献+首都圏の仕事を担う」akita-dex-wisco-enterprise-2026: 秋田県 AKITA DeX「渡敬情報システム株式会社 企業情報」akita-dex-kaneki-dx: 秋田県 AKITA DeX「株式会社楽器の店カネキ 社内のITインフラを整備して効率化を促進」akita-dex-mizuho-rice-dx: 秋田県 AKITA DeX「株式会社みずほライス データを活用し高品質・安定供給可能なシイタケ生産を実現」